旧ソ連の共産主義体制の崩壊をもたらした経済は、ロシアになってからも一段と猛威をふるっている。
国営企業の民営化、自由価格の導入といった一連の市場経済への移行はハイパーインフレをもたらし、結果的にはいっそう経済を悪化させた。
そして、もはや破滅的ともいうべきロシア経済に対し、西側先進国は支援に乗り出した。
ロシアの広大な国土と一億五千万の人口だけでも世界経済にとっては小さくない。
しかし、西側先進国が、苦しい台所事情にもかかわらず大々的な支援に踏みきった理由はそれだけではない。
西側が恐れるのは、まず、ロシアにおける共産主義への揺り戻しである。
最大の脅威がなくなった各国は、大幅に軍縮を行って経済にカを入れられるようになった。
この状態をなんとしてでも維持したいのは西側諸国共通の思いである。
経済の不安定は、おもわぬ政治勢力の台頭を許す場合が少なくない。
九三年末の総選挙で第一党となった自民党のJ党首の過激な発言にも象徴されよう。
また、旧ソ連のほぼ全土にある核兵器や原発施設の処理問題も大きな不安材料である。
核廃棄物の処理には万全の態勢をもってあたらねばならない。
お金もかかるはずだし、高度な技術も必要だ。
青息吐息の経済にそんな芸当ができるのかという不安がある。
なんらかの失敗や不注意から、大きな危険が西側諸国に及ぶことも十分考えられる。
一千万人ともいわれる失業者が経済難民となって、西側諸国、とくに欧州の先進国へ流入しつつあることも大きな社会問題になっている。
ところが、当のロシアは、どうもそのへんの事情があまりわかっていないようである。
援助資金は、かならずしも有効に使われていない。
行政機構はもとより民営化された企業でも、いまだに旧共産党幹部による支配がつづいており、政治家との癒着、賄賂、援助資金の着服や横流しが横行する。
E大統領の物腰はソフトであるが、その主張するところは、かなり自分勝手である。
膨れ上がる一方の対外債務を帳消しにしろとか、返済義務のない無償援助をよこせとか、いいたい放題である。
ロシアにも市場経済をよく知っている学者はいる。
また中央アジア出身者は商業には通じている。
しかし、現在のロシアでは市場成立の前提となる秩序がない。
法による支配と裁判が行われていないので学者の理解は机上の空論となるし、庶民の商行為は闇屋とかマフィアになっている。
ひるがえって、いち早く市場が誕生した西欧諸国でも、市場の命ずるところによって社会が動いていくという市場システムは、長い長い年月にわたるおびただしい数の苦難と試行錯誤を経て、初めて成立したものだった。
ロシアに健全なる市場経済システムが定着するまでには、まだまだ時間がかかりそうである。
旧ソ連が崩壊への道をたどり始めた一九八0年代後半、東欧諸国でも次々に社会主義体制が崩れていった。
冷戦時代には、東欧諸国は衛星固として、政治的にも経済的にも大国ソ連の統制と庇護のもとにあった。
社会主義体制が崩壊するにいたった背景は、各国ともに圏内経済の疲弊である。
競争が存在せず、価格から生産量からすべてが中央政府の統制のもとに置かれる計画経済が、市場経済より優れているかどうかについての論議はずいぶん昔からあるが、現実がその答えを出してしまった。
ついこのあいだまでプラスチックのボディーの自動車が堂々と街を走っていたという事実は、どんな社会主義経済理論よりも多くの真実を物語っている。
何十年もの長いあいだ旧ソ連の支配下に置かれていた東欧諸国は、社会主義が崩壊したからといって、すぐには市場経済への転換はできない。
とくに、イモヅル式の崩壊の原因にもなった、旧ソ連とその衛星固から成るCOMECON(経済相互援助会議)経済体制が完全なまでの分業体制を敷いていたことは、経済を再建するうえでも大きな障害となっている。
極端にいえば、鉄なら鉄、小麦なら小麦しか生産できない体制だった。
しかも、決められた量を決められた方法で生産するだけだから、労働意欲もどうしても低くなり、革新的な発想世界各国の経済状況を読にくくなってしまった。
その結果、生産性は西側諸国と比べると著しく低くなっている。
労働コストが安くても、まともなものをつくれる体制ではない。
これを少なくともEC諸国と足並みをそろえるところまでもっていくのは容易でない。
こうした状況を反映して、九三年の東欧諸国の経済成長は、ほぼマイナス成長になる見込みである。
しかし、ポーランドだけはプラスの比較的良好な成長を達成するだろう。
また、九三年初めに分裂した旧チェコスロバキアのチェコと、政治が比較的安定していて早くから市場経済的な要素を取り入れたハンガリーのニカ国は、不況には変わりはないが、他の東欧諸国と比べるとしっかりした経済基盤をもっている。
つまり、東欧と呼ばれる国々のなかで、ポーランド、チェコ、ハンガリーという中欧三カ国と、旧ユーゴスラビア、ブルガリア、ルーマニアといったその他の固とのあいだに大きな経済力の格差ができている。
東欧のなかでは、この比較的先進的な経済を誇る三カ国にスロパキアを加えた四カ国は、ECの準加盟国になっており、またEFTA(欧州自由貿易連合)にも加盟している。
そしてこの四カ国でCEFTA(中欧自由貿易協定)を結成し、貿易の促進はもとより、競争力の強化をはかろうとしている。
しかし、これらの国々でさえ政治体制には一抹の不安が残っている。
まして経済のより遅れた国々ならなおのことである。
今後東欧諸国全般が経済発展を遂げようとすれば、少なくともロシア市場というよりEC市場とどうつきあっていくかが最大のかぎになるだろう。
工業の基盤がない低開発国の場合、圏内で食糧不足に悩んでいては発展する見込みはまずない。
しかし、農産物とか一次産品とかが比較的豊富で、圏内で消費しても余るようだと、輸出に回すことができる。
輸出すれば外貨を手に入れたりできる。
その外貨で必要なもの、たとえば衣類や雑貨を輸入したり、工業製品を手に入れたりできる。
工業製品といってもこの段階ではその多くは軽工業製品であるが、それがどんどん入ってくると、そこに圏内市場が形成される。
そうなると自国で軽工業製品をつくろうということになる。
これが輸入代替工業化である。
つまり輸入したものを自国の製品にかえる、代替するわけである。
低開発国の工業化の第一段階である。
ところが、この工業化戦略は大きな人口に支えられた大量生産に結びつかないことにはコストの低下が実現しない。
また、輸入代替戦略は、輸入を制限し、さまざまな保護政策がとられる。
その結果、対外的な競争力がつくところまではなかなか進まない。
アジアNIES、とくに台湾と韓国は早くから、これではだめだと悟り六0年代のなかばごろから輸入代替をやめ、輸出指向へと切り替えた。
海外の膨大な市場、とくに米国に目を向けて圏内の大量生産体制を整えていったのである。
当初は日本から購入した機械を使って軽工業製品を生産し、それを米国市場で販売して得た外貨で新設備の増強をはじめ圏内の工業基盤を整備していく。
つまり、圏内の資本形成と対外経済戦略とがうまく連動した。
これが韓国や台湾の経済発展の最大の要因だといってよい。
ただ、同じアジアNIESでも発展の過程は多少違っている。
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